「栄養指導は治療薬」と考える・・・定期的に服用することで効果が持続する。また過量に服用すると副作用がでることもある。|のだ眼科・血管内科クリニック

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「栄養指導は治療薬」と考える・・・定期的に服用することで効果が持続する。また過量に服用すると副作用がでることもある。

更新 2017.03.19

当院には管理栄養士が常勤しています。以前のブログでも述べましたが、わたしは栄養学については素人ですので、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、高尿酸血症など食事指導が必要な患者さんについては管理栄養士さんに指導をお願いしています。

わたしが管理栄養士さんに指示していることは、栄養指導の目的と到達目標、また患者さん自らが考えて行動が変化するようにしむけるような指導を行ってもらう(専門的には「行動変容を促す」といいます)ことです。実際の栄養指導の中身、例えば、炭水化物、脂質、タンパク質の割合や総カロリーの計算などは一任しています。指示を受けた管理栄養士さんは徹底的に栄養指導をおこなってくれます。栄養指導を開始したら、綿密なスケジュール管理のもとに経過をみながら目標を修正していきます。

当院は昨年7月に開業してからようやく8ヶ月間たったばかりですが、現在通院している患者さんのなかにはこれまでの栄養指導が6回目(!)という患者さんが何人かいます。このことはワタシ的にはものすごい衝撃です。

単に私が物知らずなのだと思いますが、管理栄養士さんという職種がここまで繰り返して、何度でも何度でもやるものだということを知らずにいました。

「反復して行なうことで変化させる」というのは理学療法や運動療法のような、身体的なことについては意味があるということは一般に納得できます。しかし、脳で考え、理解して行うことについては、一過性のもの・・・・講義を受けるようなものとして捉えてました。すなわち栄養管理は頭で理解すれば、その後は大丈夫というものと考えていましたので、6回も?・・・これほどまでに反復して行うという概念こそ、わたしには全くありませんでした。

そうですよね。これまでの学校での授業のことを考えてみれば、授業を一度聞いたら覚えられたなどというのは、小学校ならともかく、中学、高校へと進むととても無理。何度も反復して読み書きをおこない、さらにテストでしごかれて、やっとこさ、記憶に定着させて、そのうちにそれを実践できるようになる・・・でもまた忘れるといったものでした。

栄養指導も同じで数回やれば、後はもう大丈夫!などということはありません。当たり前ながら何度も何度も話を聞いて、納得したうえで、食事記録をつけて覚えていく。そして忘れそうになったりしたら更にもう一度、指導を受ける!というものだったんですね。

ある意味感動!そして「栄養指導は治療薬」のようなものだと思いました。

一度投薬すればずーっと効果があるというものではなく、定期的に投薬することで効果が持続し、安定する。そんなふうに考えてみるとわかりやすいように思います。もちろん、栄養指導も万能ではないので、効きやすい患者さんもいるし、効きにくい患者さんもいます。全然効かない人には休薬してもらい、本当の「お薬」だけになることもあります。

ちなみに食事指導の指示は「栄養食事指導指示箋」とか言います。お薬で使う「処方箋」と雰囲気も似ていますね。

ちょっとくどいですが、もう少し続けます。

4-5年前に会社の健康診断にて「糖尿病」と診断された患者さん。この患者さんは治療のために自宅近くの病院(当院ではないです)を受診したそうです。その時のHbA1cは11%だったそうですが、主治医の方針で「食事療法でコントロールする」ことになったそうです。患者さんは、その病院の管理栄養士さんと何回もセッションを行い、食品換算表もマスターしたそうです。そして・・・患者さんが一生懸命頑張った甲斐あってか、食事療法のみでHbA1cが5%台となり正常化したそうです。( HbA1cが11%だったのを食事療法のみで5%台まで改善させた・・・どれほどの努力をされたのか?おそらく、相当に必死になり、よほどの苦労をされたのではないかと想像できます。)

その後は、外来受診の曜日の関係で通院が難しくなったこと、糖尿病についてはある程度自分でコントロール可能・・ということで、通院しなくなったようです。

数年たち、その患者さんが、ふたたび血糖値が上昇したということで、先日当院を受診されました。(やはり前回治療をうけた病院に行くのは気まずかったのでしょうか?)

受診時の血糖は200mg/dl以上、HbA1cが11%台まで再上昇。尿中ケトン体が(3+)となっていました。尿中ケトン体強陽性ですので、明らかにインスリン不足の状態です(おそらく、御自身で強度の糖質制限食をおこなっていた可能性もありますが・・・)。まずは不足しているインスリンを投与するためにトレシーバという持効型インスリンを開始しました。

幸いながら抗GAD抗体(※)は陰性であったので、2型糖尿病と診断し、当院で治療したいただくことになりました。(1型糖尿病であれば、もちろん糖尿病専門医の先生に紹介して治療してもらいます。)

自分ですごく努力して、一度はHbA1cを克服したはずの人がなぜ・・・ふたたび糖尿病を悪化させてしまったのか?患者さんにとってはある意味トラウマですので、いまのところあまり深くは究明できてないのですが、疑問は残ります。

糖尿病の治療においては、「頑張らさせすぎないことが大事・・・(糖尿病バーンアウト:燃え尽き症候群?)」ということはよく言われています。もしかしたら、この患者さんは以前の治療で頑張り過ぎてしまったのではないか?ということも想像されます。過去に頑張り過ぎたことで、再び悪化したときに食事療法を頑張ることに辛くなってしまった。

そして、悪化していることには薄々気づいてはいたものの、また病院に行って食事指導を受けて厳しい食事制限を行うのは心からしんどかったのかもしれません。

ある意味・・・食事指導の遍重による副作用??

一旦よくなった糖尿病をそのまま維持し、健康であり続けるために何が必要だったのか?そしてこの患者さんのためにはどんなことを考えていけばいいのか。今後の治療を考えていく上でいろいろと考えさせられます。糖尿病が改善しても受診を終了させたりしないように、定期検査を義務づけるか、あるいは軽いお薬だけでも処方して外来受診を継続してもらうように誘導するという方法があったのかもしれません。いずれにしても放置しないことが大事です。

非常にお忙しい立場の患者さんなのですが、患者さんと信頼関係が築けたらじっくりとお話をうかがっていきたいと思います。

おまけ:

石川雄一先生の「コミュニケーションは治療薬」という動画がYoutubeにアップされています。今回のブログのタイトルは、この講演をヒントにさせていただきました。

石川先生は、産業医講習会でお世話になった先生で、健康医学における私の「心の師」です。感動を与えてくれる先生です。

15分強とちょっと長いビデオですが、ご覧になってください。↓

※ 抗GAD抗体とは、

グルタミン酸脱炭酸酵素(Glutamic acid decarboxylase:GAD)は、グルタミン酸よりγ-アミノ酪酸を合成する際に働く酵素であり、主に脳や膵ランゲルハンス氏島β細胞に存在します。抗GAD抗体は、インスリン依存型糖尿病(IDDM)における自己抗体であり、発症早期のIDDM患者の血中に高率に出現することが報告されています。

抗GAD抗体は①自己免疫性1型糖尿病の診断のマーカーとして、②自己免疫性1型糖尿病の発症予知の指標として、③インスリン非依存状態として発症しているslowly progressive IDDM患者を早期に発見する診断マーカーとして、④stiff-man症候群やautoimmune polyglandular syndromeで1型糖尿病を発症しない例の診断の指標として、測定されます.

抗GAD抗体は、成人における1型糖尿病の診断、発症予知には感度、特異性の両面で最も優れています。

以上、岡山大学検査部HP, シスメックス社提供「プライマリケア」HPより