「ポリファーマシー」を御存知ですか?|のだ眼科・血管内科クリニック

眼科0172-33-6611
内科0172-33-6622

「ポリファーマシー」を御存知ですか?

更新 2017.03.25

ポリファーマシーという言葉を御存知ですか?

以前にNHKの朝のニュースの「けんコン!」のコーナーでも取りあげられてもいたので、御存知の方もいらっしゃるかもしれません。

(平成29年1月17日(火曜日))↑外部リンクです。

「ポリファーマシー」は日本語訳しますと、「多剤併用、多剤処方」となります。

ところで、「歩くと足が痛いから・・・」、「足がむくみから・・・」とか、「しびれを何とかして欲しい・・・」などという症状で御高齢の方が受診された場合、当院では必ず「お薬手帳」を確認しています。

お薬手帳は非常に便利な手帳です。その患者さんがご自分の病名をいちいち覚えていなくても、しっかりと管理された手帳さえあれば、その方がこれまでどのような病名で、どんな医療機関を受診しているのか?ということがわかるようになっています。

とても大事なお薬手帳ではありますが、患者さんの症状を改善しようとして、新たな薬を処方しようとすると、既に7種類以上の薬を服用されている患者さんもいます。こうしたときには、一体どうしたらよいものか・・・と患者さんを目の前にしばらく考え込んでしまうこともあります。

そういったことがおこる背景にはいろいろな原因があります。

第一には「高齢」という問題。人は誰も高齢になれば身体の臓器機能や新陳代謝は衰え、ホルモンや免疫のバランスも崩れやすくなります。このため、高血圧だとか、脂質異常症、糖尿病、動脈硬化、骨粗鬆症、そして認知症などを発症していきます。年を取るとはそういうことです。そして、加齢とともに一つ一つ病気を発症。それに伴い一つ一つお薬が増えていくことになります。

それを後押ししているのが、「診療ガイドライン」の存在です。医療先進国日本では、それぞれの病気について、それぞれの「学会」例えば、「動脈硬化」、「高血圧」とか「糖尿病」の病名「学会」を続けたものが数多くあり、それぞれの学会ごとに個別の病気に関しての「診療ガイドライン」が非常に綿密に作成されています。

そして、それぞれの疾患についてガイドラインを遵守しながら治療していくと、その疾患については標準的な良い診療ができるようになっています、ガイドラインでは、学術論文という様々な研究の成果に基づき、さまざまな種類のお薬、さまざまな治療方法が示されているので、非常に頼りになる存在です。それぞれのガイドラインに基づいて診療する限り、疾患の数が増えれば増えるほど薬物が増えていくことになります。しかしながら、ガイドラインはあくまで個別です。「高血圧と糖尿病を併存している患者のガイドライン」とか、「高コレステロール血症と高尿酸血症の診療ガイドライン」というのがあるわけではありません。

さらに、日本は世界に誇るべきヘルスケアシステム。

すなわち「国民皆保険制度」を構築しています。「国民皆保険制度」の特長は、

①国民全員を公的医療保険で保障

②フリーアクセス

③非常に安く高度な医療の提供

④社会保険形式を基本としながら公費を投入している

以上でありこれによって世界最高レベルの平均寿命を達成しているのは紛れもない事実だと思います。

このことによって・・・幸か不幸かわかりませんが、以下のようなことが生じてきます。あくまでたとえ話としてですが、

高血圧、胃がん術後で内科に通院している患者さんが、腰から足にかけて痛みがあるということで、整形外科を受診。すると「腰部脊柱管狭窄症」ということで痛みをとるためのお薬を処方。その後、尿が出づらくなったということを内科の担当医に相談したところ、泌尿器科受診を薦められ・・・泌尿器科では「前立腺肥大」の診断となり、薬を処方。その後、整形外科の先生に、歩行時の足の痛みは若干よくなったが、それでも完全にはよくならないことを相談したところ、別の医院を紹介され、「動脈硬化」ということで投薬と手術を薦められ・・・などという繰り返しによって次第次第に内服薬が増えていくようになります。

そのため、A医院で高血圧と胃腸のお薬、Bクリニックで消炎鎮痛剤と湿布、C診療所で前立腺肥大の薬、D医院で血液サラサラの薬・・・・などということが起こるようになってきます。

この過程において医師および医療関係者はそれぞれが自分の役割をしっかりと果たすべく、善意をもって振る舞っています。しかし、結果として「その患者さんに対する医療としては統合されていない」という印象を強く持ちます。

多剤を併用している患者さんの反応は様々です。ある患者さんは医師と面談し、検査を行い、薬をもらうことで安心(※)が得られ、とても満足します。薬を呑むことではなく、薬を処方してもらうこと、その行為がある種の治療になっているものと思われます。

しかし、別の患者さんは、「また薬が増えた!すでに馬に喰わせるくらいに薬を出されているのに!」と不安と不満を、特に医師以外のスタッフに対して訴えたりします。

このため、薬を処方されても数回服用しただけで、全く服用しなかったり、自宅に沢山の残薬を抱えているひともいます。

ポリファーマシーが患者さんの生命予後に良い影響を与えているのか、悪い影響を与えているのかは、なかなか結論を出しがたい状況といわれています(この辺が難しいところのようです)。ただし、高齢者においては7種類以上の薬物はきちんと服用できていない可能性が高く、代謝の問題から薬同士の飲み合わせの問題が起こりやすいといわれています。

「ポリファーマシー」という言葉は、薬剤師の先生方にとっては常識であり、取り組むべき重要課題となっています。しかしながら、医師にとっては・・・まだまだ現状ではそのようになっていない状況だと感じています。

「まず自らが正すべきである!」という前置きの上で述べますが、自分の専門の薬を処方したり、減薬したりする事については何の抵抗もないのですが、専門外の薬についてはどうしたらよいか、わかりにくく、また取り組みがたい状況です。

そんなこんなで、お薬のことを熟知し、ポリファーマシーについて真剣に取り組まれている薬剤師の先生と、是非一度じっくりとお話をする機会を得たいと思う今日この頃です。

おまけ

ちなみに、ポリファーマシーについてのガイドラインもあります。(外部リンク:下の文字をクリックして下さい。)

「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」

というのがそれです。ただし143ページもあるガイドラインなので、通読して実践するにはなかなか骨が折れそうです。

なお、不適切な薬剤の使用に関する方法論としては、下記のような手法があります。

(青島周一の「これで解決!ポリファーマシー」より・・・JAMA Intern Med.2015;175(5):827-34)

(1)患者が現在使用している全ての薬剤について、処方理由を再確認する。

(2)個々の患者における薬剤有害事象の全体的なリスクを把握し、積極的に介入をすべきかを評価する。

(3)各薬剤における、潜在的なリスクとベネフィットを評価し、中止の妥当性について検討する。

(4)低リスク・高ベネフィット、退薬症状、患者の希望などを考慮して中止薬剤の優先順位を決める。

(5)中止レジメンを実行し、アウトカムの改善や副作用発現のために注意深く患者を観察する。

以上です。

(※)「安全」と「安心」については最近語られることが多くなってきています。安全とは、「“危険の少ない現実”が守られている状態」のこと。安心とは、「大丈夫と感じている心や気持ちの状態」のこと。安全の確保には手間とお金がかかるものですが、安心は「心」の問題なので、さらに手間もお金も時間もかかります。合理的とは言えない部分もありますが、なかなか難しい問題です。