漢方診療における著効例について(改訂版)


 漢方が非常に効果があったと思われる患者さんが同じ日に来院されるということがありました。

 

一人目は80歳代女性です。

 ある日の午後3時に急激に右足の親指の付け根の部分に腫れと赤み、それに急な痛みが表れましたといって、娘さんと一緒に来院されました。患者さんは普段は他の医院から血圧とコレステロールを下げる薬を処方され服用しているとのことでした。

 わたしの仕事は足をみることですから、まず靴下を脱いでもらいます。先入観をもたずに痛むところをみれば、一見「痛風」です。痛風とは尿酸の結晶が関節に沈着することで炎症がおこる病気です。病状の経過、痛みの場所も「痛風(つうふう)」の発作として問題ないようです。しかし、高齢女性の痛風というのはあまり例がありません。

 さらに、痛風であれば、おそらく異常値を示すであろう尿酸(にょうさん)という成分が上昇しているはずですが、この患者さんでは尿酸は全く上昇していません。ただし「CRP」という炎症のときに上昇する成分のみが異常値でした。また足の骨のX線写真を撮影しましたが、特に異常は見られませんでした。

 痛風の診断となれば、炎症と痛みをおさえる薬を処方して診察終了となるのですが、どうも違うようです。

 

 では偽痛風?(※偽痛風とは尿酸血症に変わりにピロリン酸カルシウムという結晶物が関節に沈着して起こる病気です)場所が若干異なるし、関節軟骨の石灰化もなし。(カルシウム、リンは正常でした)CRPは1.5と軽度上昇していましたが、また白血球の上昇はありませんでした。診断は・・・はっきりしません。

 ・・・・こういうときには、わたしは直ぐに頭を切り換えます。「西洋的に診断名を求めてあれこれする詮索するよりも、まずは患者さんの症状をなんとかしよう・・・」

 こういったときに強い味方となるのが、漢方です。

 

 急性の関節の腫れと発赤が見られたことから、「越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)」を選択、皮膚の発赤が強いので、これを抑えるために「十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)」を追加しました。越婢加朮湯は麻黄というエフェドリンを含んでおり、比較的体力のある方に処方する薬です。患者さんは痩せている方なので、体力的には大丈夫かな?と少し思ったのですが、痛みと赤み、腫れなど炎症の症状がはっきりしていたので、ここは強気に越婢加朮湯にしました。だたし、ご高齢ということなので、投与量は2/3にしました。

 

 そして・・・その方が後日見えられたのですが、驚くほどに症状がきれいに消えていました。もちろん、再発しないともかぎらないので、しばらく経過を見たいとは思いますが、まずは著効例としてよいと思いました。

 

 

 二人目は40代の女性。下肢静脈瘤にて受診されました。最近特に症状が悪化したとのこと。左膝を曲げようとすると膝の内側に圧迫されるような感じが強くなり、また左半身が全体に冷たい感じがするということでした。左腕も疲れやすいとのことでした。

 左半身に症状が集中していたことから、脳や脊髄など神経学的な症状を伺わせる感じがありました。そこで念のため頭部CTを施行しましたが、異常は見られません。一般に、下肢静脈瘤を訴えて見えられる方に、わたしは静脈瘤を「瘀血」という血液が滞っている状態として捉え、「桂枝茯苓丸」を処方することが多いです。

 しかし、このかたには左半身の症状が強く訴えています。するのですが、このかたには、「疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)」を処方しました。「疎経活血湯は左半身の症状に効果がある」と漢方の専門医の口説(くどく)を受けたことがあったからです。

 そして、後日来院されました。お話を聞くと、「先生!、ドンピシャ。ストライクです。飲み始めたその日の夜から、これまでの症状が嘘のように消えました。いままでいろいろと困っていたのはなんだったんだろう。」とおっしゃっていました。その話を友人にお話しても「神経でねぇ?(精神的なものなんじゃない?)」といっても信じてもらえなかったようです。

 このかたについても著効例としてよいのではよいかと思います。

 

 漢方学については、わたし自身、お師匠について修業したわけではないです。ただ、漢方の勉強会にはかなり熱心に参加し、知識を身につけるべく努力はしています。漢方学の本も10数冊を通読しています。

 もちろん西洋的な診断、病態の解明も大事です。しかし、西洋医学的にみて、ひとまず診断が不明瞭であっても、それらしい病名をつけて処方することで改善していることも多いです。(風邪や自律神経失調症などはその例ですが・・・)

 そういった実態を考慮すれば、あながち漢方での診療がだめとはいえないと思います。

 

 もちろん漢方は、症状が治まれば何でもいいとは思いません。さらに漢方的に症状が改善しても、そこに落とし穴があることは十分承知しています。(自分が関係した患者さんではありませんが、とある病院のとある医療関係者の話・・・漢方の恐い落とし穴ですけど、いずれ書きたいと思います)

 

 なにはともあれ、今回、自分的には大変よい経験をさせてもらえました。患者さんが喜ぶ姿をみるととても、働く意欲がわいてきます。医者にとってなによりのご褒美です。

  

 まとまりなく書いてしまいましたが、今日のところはとりあえずここまでにしたいと思います。

それでは。

 

<解説>

越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)は、体の熱や腫れ、あるいは痛みを発散して治します。病気の初期で、比較的体力のある人に向いています。具体的には、腎炎、ネフローゼ、関節リウマチ、湿疹などに適応します。むくみ(浮腫)や尿量減少、口の渇きなども処方の目安になります。

 

十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)は、皮膚の赤みやカユミを発散し、腫れや化膿をおさえます。また、そのようになりやすい体質を改善します。体力が中くらいの人に向く処方です。

 

疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)は、血行や水分循環を改善し、また痛みを発散して治します。その作用から、関節痛や神経痛、腰痛や筋肉痛などに適応します。体力が中くらいの人で、皮膚が浅黒く、ときに浮腫をともない、足腰が冷えて痛むときに適します。