今日も元気だ たばこが嫌い!


「今日も元気だ たばこがうまい!」(昭和32年 日本専売公社)
 これは昭和30-40年代に流行った日本専売公社の名キャッチコピーです。覚えているかたも多いと思いますが、私が小学生のころにはよく聞いたフレーズでした。その頃は電車の中でも、自家用車のなかでも大人はよく煙草を吸っていました。車内がうっすらと煙っていることもあまり疑問に思うこともなく、それはごく日常の風景だったし当たり前の様に感じていた。
 いまとなってはお恥ずかしい話ですが、高校を卒業し浪人生になったころから煙草を日常的に吸うようになりました。
 そのころは、浪人生同士で「1本のタバコと1杯のコーヒーとどっちが身体には悪いのか?」なんて議論していました。バカですね。
 医学生になってからも喫煙習慣は続き・・・たまり場となっていた友人のアパートでは、だべりながら吸い殻が灰皿から溢れ、さらにはペール缶の中に何百本もの吸い殻があり・・・・といった調子でタバコは日常でした。
 風邪をひいたときすら、ゴホゴホと咳込みながら喫煙していました。ホント情けないほどにタバコに支配されていたと思います。
 いまから25年ほど前、医師になって3年目に喫煙を辞めました。禁煙のきっかけはなんだったのか、不思議とあまり覚えていませんが、とりあえず、お気に入りのライター、灰皿、タバコ入れ、パイプ類など全て捨てました。
 しかし1回の禁煙チャレンジで辞められたわけではありません。宴会などでつい気が緩んで「ちょっと一本いい?」ともらい煙草をしてしまい、そこから再開してしまったことが数回ありました。決して順調とは言えませんでしたが、その後から今に至るまで禁煙は続いています。

 タバコをやめてみてわかったことは、「タバコはイライラしたときのストレス解消になる」というのは大嘘だなということでした。

 むしろ喫煙者だったころには、ケースにあと何本あるか?と煙草の残り本数を気にしたり、喫煙する場所やタイミングはどうしようかと悩み、ポケットに小銭の残りを探し、果てはアパートの火の後始末を心配して・・・・・などなど脳の一部がいつも煙草のことを考えていました。

 タバコをやめたことで、むしろ「喫煙そのものがストレスやイライラの原因になっていた」ということに気がつきました。

 気になって調べてみたら、ファイザーのHPにも同じような記事がのっていることを知り、納得。やはり、タバコをやめたほうがストレスの度合いが少なくなるようです。

 

 元喫煙者あるある!だと思いますが、「タバコの臭いに敏感になり、タバコがキライになり」ました。元喫煙者が嫌煙家になる・・・・知り合いでも身の回りでも同じような人は多いです。
 屋外で数10m以上離れたところでも喫煙されたタバコの臭いがわかるといやな感じになります。 ホテルやレストランでは必ず「禁煙」を指定するようになります。特にホテルなどでは部屋がタバコ臭いと吐き気がしたり、頭が痛くなったりします。
 実際のところ、副流煙のうち、目に見える煙(粒子成分)は3%以下で、目に見えない煙(ガス成分)は97%以上なんだそうです。つまり目に見えている煙は実際の3%に過ぎず、見えない煙がその30倍となるのだから、離れたところでも臭いは分かるわけなんですが・・・。そして無神経な喫煙者に対しては本当にイライラすることがあります。
 小学生のころには隣の人が喫煙していても殆ど無頓着だったタバコの煙。ですが、時代の流れなのか、身体の変化なのか、感じ方も変わるものですね。
 喫煙のことではいまも思い出す話なのですが、下肢閉塞性動脈硬化症で私が血管形成術で治療したある70歳代の患者さん。
 以前は警察にお勤めだったとのことで眼光は非常に鋭く、かつ愛煙家でした。同じく動脈硬化で治療し通院していた患者さん(非喫煙者)がいて、たまたま二人は同級生同士ということで仲も良く大抵同じ日に通院していました。
 喫煙は動脈硬化というだけではなく、癌や脳卒中、心筋梗塞などのリスクを増大させます。ですからたびたび禁煙を促していましたが、なかなか喫煙をやめてはくれませんでした。
 外来で、
 私:「今何本くらい?」
 患者:「毎日20本」
 私」「動脈硬化が進行しているので、煙草をやめないと心筋梗塞や脳梗塞など将来的には非常にまずいですよ。何とか頑張って禁煙しましょう」
 患者:「先生、私は煙草はやめないんですよ・・・」
 とまるでドラマで刑事さんが話すような、あの鋭い眼光でお断りされてしまいました。
 「じゃあ、もう、来なくていい!とっとと帰れ」などという捨て台詞も、滅多なことでは口に出来ません。「じゃあ、先生とはこれまで・・・」と通院を中断して、薬も中断されそうで・・・それはもっと困ります。
 なので、しつこいですがときどき禁煙を勧めては、返り討ちにあっていました。(あの眼光の鋭さが半端ねぇ)
 ある日、その眼光鋭い患者さんが、外来の予約日に受診されませんでした。「今日はいらしてないな・・・」と思いつつ、いつも一緒に通院しているその同級生さんに尋ねたところ、「ああ、あいつはアタったんで、(別の脳卒中の専門病院に)入院している。もう廃人だぁ!」と告げられました。
 
 人の一生はそれぞれだし、またその患者さんにとってタバコがどれほど大事だったのかどうか?本当のところはわかりません。
 また、タバコを吸っていたことが、脳卒中の本当の原因かどうかもわかりません。もう御本人と話をすることは出来ませんが、「いやー、アタっても本望だったんだよ!」と考えていたかもしれません。
 ことタバコとなると嫌煙家は、タバコが病気を引き起こすリスクに関して感情的、ヒステリックになりがちなので、統計的事実といわれることについても若干注意しながら話す必要があります。
 
 煙草ケースには「喫煙は、あなたにとって脳卒中の危険性を高めます。疫学的な推計によると、喫煙者は脳卒中により死亡する危険性が非喫煙者に比べて約1.7倍高くなります。」と表記されています。これは多分事実なのでしょう。これをみて喫煙する人の多くが考えます。「1.7倍ってたいしたことではないのではないか?」と。しかし、疫学的な推計の母集団には多くの健常者が含まれています。
 もし、既に動脈硬化があると確定した患者さん・・・特に私の外来に通院しているような患者さんは、喫煙によって引き起こされる脳卒中リスクは、非喫煙の1.7倍だったなんてもんじゃ・・・絶対ないよな・・・と強く感じたものでした。
 
 ええっと。それから、3年以上経ちます。アタった愛煙家の患者さんは既にお亡くなりになったと聞きました。
 そして、もう一人の非喫煙の同級生の方はというと、先日久しぶりに当院を訪れ、懐かしい顔を見せに来てくれました。
 これも事実なんですけどね。