認知症患者800万人時代! 認知症治療薬「メマリー」の話


 急速な勢いで高齢化が進む国、日本。

 今後、日本の認知症の患者は800万人になる見込みだそうです。(NHKスペシャルから)

 血管内科として動脈硬化の患者さんを診察していく傍ら、それに並行するように存在する認知症。

 施設ではなく、在宅で認知症をみるのが一般的であり、また、その数のおおさからして認知症を診察できることは医師として必須となっています。

 

 つい先日のことですが、その前の診察の際に「メマリー」というお薬を追加処方した患者さんとその娘さんが見えられました。娘さんに状況を伺うと ”メマリー内服をはじめてから患者の問題発言が減り、家の中での喧噪がとても少なくなった。”ということでした。どうやら薬が効いたようです。

「メマリー(メマンチン)」というのは認知症治療薬で、これは認知症による周辺症状を抑えるのにとても効果のあるお薬です。

 

 認知症というと、通常は「もの忘れ」や「日時や場所、方向感覚がなくなる」「判断力低下」「日常生活力の低下」などという中核症状のことを思い浮かべられると思います。

 

 しかし、認知症患者の介護に携わる家族にとって現実の脅威は、患者の ”周辺症状” です。

 

 周辺症状とは「物盗られ妄想」や「暴言、暴力」、「食事拒否」、「異食」、「徘徊」、「失禁や不適切な便処置」、「幻覚、幻聴」など介護する家族からみると深刻に困惑するような状況です。

 

 周辺症状が悪化すると、患者からの暴言、暴力や物盗られ妄想などによって介護をする家族は精神的、肉体的に大きなダメージを受けます。また患者自身においても、それまで家族との間で培われた人間関係が損なわれてしまいます。(昔はいい人だと思っていたのに・・・などと晩節を汚すようなことに・・・)

 医療者が「その暴力や暴言は認知症の症状ですから」といくら説明しても、なんの解決になりません。たとえ、それが病気による症状とは理解できても、暴言は親しい分だけ的確に家族を傷つけ、お互いに非常に不幸な状況に陥ってしまいます。

 

 メマリーはあの2011年の5月に発売されたお薬ですが、いろいろと思い出深い話があります。(東日本大震災の年でした。期待の新薬だったのに発売が延期され、メーカーの方が二重にショックを受けた・・・といういわくがありましたね)

 

 以前の病院勤務のころの話ですが、閉塞性動脈硬化症の70歳代の男性の患者さんとその奥さんの話。

 その患者さんは、左足の親指が陥入爪となり、それに感染を併発。その後別の病院で足の親指を切断したが、縫合後の創傷治癒がうまくいかず、腐敗しまったということで紹介されました。下肢血流障害を治療し、腐敗部分を切除したところ、みるみると肉芽が盛り上がり、そのまま皮膚移植せずに治癒してしまったという経過です。

患者さんとその奥さんは、治療がうまくいったことにとても感謝してくれまして、その後も往復2時間以上かけて自宅から月一回のペースで通院してくれました。

さて、問題はここから。

 この患者さん自身はとても朗らかで人柄もよく、通院はいつも奥さんと一緒。

「先生のお陰です。命を救ってもらいました。」などとこっちが恥ずかしくなるような表現で感謝してくれ、それなりに気遣いもできる方でした。

 しかし、ある日の外来、奥さんが患者さんの後ろ側から何回も目配せをしています。

 

 「ん~どうしたんだろう?」と思い、ひとまず患者さんと奥さんを診察室から送り出しました。その後、「ちょっと確認したいことがあるから・・・」と奥さんだけを再び診察室に招き入れて話を聞くことにしました。

 

「どうしました?」

 と聞くと、奥さんは非常に困ったような顔をして、

 「おっとぉが最近、物忘れるようになっただば、、、おまけに夜になるとわのこと、むったと殴るようになったでば、たいして困っただじゃ~(確かこんな感じのディープ津軽弁)」

と話してくれました。

 たしかに動脈硬化が相当進行している患者さんであったし、以前に撮影した頭部CTでも脳が相当萎縮していることは知っていました。

「そうですか?認知症ですかね~。じゃあ次来たときに認知症の検査してみましょう」ということで、「長谷川式認知症スケール」を、言語療法士にお願いしてチェックしてもらいました。 得点は20点以上ありセーフということでしたが、若干記名障害があるのでは・・・?という検査者のコメントでした。

  検査結果では明らかに認知症とは言い難いながらも、奥さんは夫の暴力に相当にお困りの様子でした。

 

 そのころ私は、「メマリー」という新しい認知症薬が発売になったことを医師会主催の勉強会で情報収集しており、どうやら周辺症状によく効くらしいという話でしたので、これを5mgから開始することとしました。

 

 さて、当時の常識からして、「なぜ、認知症の専門医でもないのに発売されたばかりの新薬を処方したの?」という御意見もあるかとは思いますが、弘前まで往復2時間もかかるところに住む、在(ざい)の患者さんは、紹介状を持たせて専門医のところに行けといっても面倒くさがって行かないのです。そのことよりも奥さんが暴力を振るわれていることが気にはなってしまいました。

 

 さて、その後も患者さんは奥さんと一緒に通院。外来では特に様子の違いはなかったのですが、お薬を少しずつ20mgまで増量していきました。そのご、奥さんに家庭での状況について伺ったところ、「薬(メマリー)を飲むようになってから家庭内での暴力が全くなくなった。とても良かった」ということでした。

 

 他の患者さんにおいてもメマリーは著効しました。・・・その方は脳梗塞で片麻痺、失語あり、車椅子でしたが、気に入らないことがあると外来でよく暴れる患者さんでした、。この方にもメマリーを処方したところ、その後外来でほとんど暴れなくなり、さらに「夫が優しくなった」と奥さんから感謝されたこともあります。

 

 メマリーはとても良いお薬ですが、困った点が一つあります。能書には「通常、成人にはメマンチン塩酸塩として 1 日 1 回 5 mgから開始し、 1 週間に 5 mgずつ増量し、維持量として 1 日 1 回20mgを経口投与する。」

 

とあります。しかし、実際に20mgまで増量すると患者さんによっては情動が過剰に抑制されてしまうことがあります。

その結果、患者さんの活動性が落ちてしまうことが有ります。その結果として「褥瘡」を作りかけたことがあります。

 

 そのため、維持量を10mgとしていたところ、医療保険機構から「正しい使い方をしていない!20mgまで増量しないのはいけません」と注意を受けたことがあります。

 このため、あるいみ無駄と思えるような「症状詳記」を書いたことが何回もあります。(最近は改善されつつありますが・・・)

 

 維持量に関する能書を早く変更して欲しいと思うのですが、行政やメーカーの立場はどうなんでしょう?

 

 「認知症800万人!」って凄いインパクトです。今後人口の40%以上が高齢者になっていくことを考えると高齢者の5人に1人が認知症ということになるのでしょうか? 

 

 いずれにしても今後は、好むと好まざるとにかかわらず、認知症の問題にはしっかりと取り組んでいかなければならないと思います。


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コメント: 2
  • #1

    マツダ (水曜日, 09 5月 2018 18:17)

    私の父親も、今年初めから急に認知症が、酷くなりまともにコミュニケーションが出来なくなっていましたが、3-4月にかけて、5mgから始めて20mgに4週間かけて増量し現在に至っておりますが、もう以前の父のように戻っております。97歳ですが、こんなにも効くとは……ただただ驚くばかりです。このままずうっと、効いてくれる
    ことを祈るばかりです。

  • #2

    野田 浩 (火曜日, 10 7月 2018 14:07)

    コメントありがとうございます。コメントに気づかず失礼しました。
    97歳でメマリーが20㎎まで服用できるというのは、かなりお元気なのですね。たしかに薬でコミュニケーションが取れるのと取れないのとでは介護していく上でかなり違いますよね。このメマリーですが、神経内科の「長谷川嘉哉」先生も絶賛していました。
    先生のブログは認知症患者さんを診るうえでとても参考になります。
    参考までにご覧ください。
    http://yoshiya-hasegawa.com/blog/about-dementia/post-423/
    http://yoshiya-hasegawa.com/blog/about-dementia/7246/