第14回 弘前・白神アップルマラソン お天気なのもほどほどに


  今日は第14回弘前・白神アップルマラソンに参加してきました。参加といっても自分がランナーとして参加するというわけではなく、救護班の医師としての参加です。救護班はアップルマラソンの選手の身体的トラブルをサポートするのがお仕事で、その内容は出走前の血圧チェックから始まり、足のマメが潰れた、皮が剝けた、転倒して擦り傷をこさえた、虫に刺されたといったものから、足が攣った、めまいがする、吐いたといったもの。更には胸が苦しい、呼吸困難、そして意識がなく呼びかけに反応しないなどなど様々です。また、リタイアした人がそのまま帰宅して大丈夫かどうかといった健康状態のチェックも行います。

 もちろん、救命用のAED(エーイーディー)は何台も準備しており、緊急時にはこれを使うこともあります。

 今年の参加者は6500名ほど。昨年よりやや減ったとのことでした。それをサポートする救護班は数十名の救急救命士を含む消防士さん、医師5名、看護師7名での構成からなります。医師の配置はコースの3カ所とドクターカーの1カ所になっていますが、私の配置は本部。本部は医師2名体制です。私と相方の花○先生は弘前大学の先輩で救命救急センターに長年勤められているベテランの先生。循環器内科出身のとても元気でその場の状況に応じて的確な判断をしてくれる頼もしい先生です。

 

 さて、午前8時前に会場に到着。朝から気持ちよく晴れて快晴の空、気温上昇が予測されました。大会本部や来賓の方にとっては「好天に恵まれて、すばらしい大会となりそうな良い天候」なのでしょうが、救護班にとっては、「忙しく、壮絶な一日、もしかしたら心肺停止が発生?しそうなとても悪い予感がする天候」です。

 午前9時に青森県知事がスターターになり、フルマラソンがスタート。続いて弘前市長がスターターとなり3kmの中学生がスタート。順次、3kmの小学生と高校生以上、10km、ハーフマラソン、5kmと順次スタートとなりました。

 

 本部救護所に最初の選手が訪れたのが、10時半。足のトラブルという軽症。続いて、転倒で額が割れて大量の出血を起こした方が見えられました。応急処置の止血をしてから縫合のために臨時当番の病院への搬送となりました。

 その後、ゴール近くで人が倒れていると連絡があり、ベテランの花○先生が現場に急行しました。花○先生が不在の最中にも次々も選手がやってきます。私が担当した選手は両下肢痙攣を起こしていたのですが、異常な発汗と若干の意識障害あり。脇の下に体温計を強く刺すようにして体温を測定すると39.8度。熱中症です。早速リンゲル液を補液。ビニール袋にクラッシュアイスを入れて作成した「氷嚢」で選手の頸部、腋窩、脇腹、股関節を冷やします。そして痙攣した下腿の筋肉を伸ばしてやります。観察していると手も痙攣状態となり、助産婦位(トルソー徴候といって低カルシウム血症などで起こります)となりました。汗で大分ミネラル分を失った結果です。

 ベテラン花○先生が帰ってきところで、説明してくれたのですが、「倒れていた選手は熱が40度近くあり、意識も怪しかった」のでそのまま補液を行いつつ大学病院の救急救命センターに搬送となったようです。

 

 気温の上昇と太陽の日射しが選手へのダメージを大きくしたのか、その内に次々と下肢痙攣、嘔吐といった選手が次々訪れました。熱中症にまでいってなくても消化管へのダメージを負っている方も多く、水分を受け付けないような方には、次々とベッドに寝かせ、補液を行います。

 途中、シャツとズボンを着用した70歳代の男性が救護所まで「具合が悪くなった」といって見えられました。70歳代でランニングウェアではない、普通の私服ということもあって、身なりだけみると70歳代のどこにでもいそうな「患者さん」にみえます。「患者さん??を救護所で見ることもあるの?」と思っていたら、実はマラソンの参加選手でした。どうやらゴールし終わってから着替えて帰り支度をしている最中に具合がわるくなったそうです。点滴を開始しました。70歳代でも頑張ってます。

 

 本部救護所では当初、3台のベッドを準備していたのですが、足りなくなってしまいました。ならべた椅子をベッド代わりにして全部で7台のベッドを確保し、それぞれに選手が横たわっている状態でした。

 選手の多くが下肢の痙攣のために歩行できなくなって訪れます。中には両足の大腿部と下腿のふくらはぎが攣ったという人もいます。大腿部でも大腿四頭筋(大腿部前面の筋肉)が痙攣したので、それを伸ばそうとしたら、今度はハムストリングス(大腿後面の筋肉)が痙攣したり、あるいは背中の筋肉がつったりしてかなり大変な状態の選手もいました。

 太陽が照ってくると体調を崩した選手が一気に押し寄せます。しかし、雲によって日射しが遮られると若干、余裕ができるといった状況で、あたかも天候の経過と選手の体調とがリンクしているようでした。

 

 当初、救護所に30本以上準備していたリンゲル液(点滴)が底をつき(これはこれまでで初めだそうです)、大量に準備したクラッシュアイスも殆ど使い切った状態で大会終了となる午後3時を迎え、救護班の仕事もようやく一段落となりました。

 

 今回、救護班として参加してみて感じたことがあります。

 一つは選手には天候に応じた体調管理の戦略が必要だということ。今日のような暑さが予測される大会では脱水対策と電解質管理がとても重要です。汗で大量の電解質を失うことで、筋肉痙攣だけでなく内臓障害をも起こします。またランニングでは上下に内臓が揺すぶられるので、胃内に停滞しやすいような水分摂取のやり方はよくないと思います。胃内に停滞した水が内臓を上下に揺さぶることで、消化管へのダメージを起こしやすくなるのかもしれません。選手の一人が「胃がチャプチャプしている。水を摂っても全く吸収されてないような気がする」と話してましたが、やはり吸収の悪い水道水よりは、OS-1などの経口補水液の方がよいと思います。経口補水液(結構しょっぱい)は点滴したのと同じ早さで体内に吸収されます。

 

 それと、もう一つは大会で記録を狙うなど、頑張って走ろうと考えている選手は是非ともサポート役がいる状況で参加して欲しいと思います。できれば責任者がしっかりとしているようなチームが最適です。頑張ろうとする選手はかなり無理をしがちで、具合も悪くなりやすい。でもサポート役がキチンとしていれば、なにかあったときの対応は随分と円滑に運びます。例え、病院に救命搬送するような場合でも持ち物や荷物の管理、搬送先での受付などを代行してやってくれる方がいるのといないのとでは大違いです。

 それとは逆に、一人で参加して状態が悪くなるまで頑張ってしまうのは非常にまずいと思います。単独参加で倒れたりしたら、運営スタッフがその選手の御家族への連絡や持ち物の回収と管理、それを病院まで送り届けて受付したりしなければならず、スタッフの労力は大変なものになります。

 

 今回の大会ではリタイアがかなり多かったと聞いています。ゴールまで走りきって倒れるより、リタイアする勇気をもつことが大事。きちんと自分の体調を理解し、もしダメだなと思ったら身体に深刻なダメージを来す前にリタイアできた人はとてもクレバーだと思います。

 マラソン大会への参加は人生あるいは健康を修養するためかもしれませんが、人生を賭ける場ではありません。あくまで楽しんでやるものですからね。

 それでは。